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2011年に製作されたイギリス・フランス・ドイツ合作映画『裏切りのサーカス』(原題:Tinker Tailor Soldier Spy)は、スパイ小説の大家ジョン・ル・カレの代表作を映画化した、冷戦時代を舞台にした本格スパイ・サスペンスです。監督はスウェーデン出身の鬼才トーマス・アルフレッドソン(『ぼくのエリ 200歳の少女』)、主演に老スパイ役を抑制の効いた演技で体現したゲイリー・オールドマン。共演にはコリン・ファース、トム・ハーディ、ベネディクト・カンバーバッチ、マーク・ストロング、ジョン・ハート、トビー・ジョーンズ、キアラン・ハインズという、英国映画界を代表する豪華な顔ぶれが揃いました。派手なアクションや銃撃戦を一切排した、沈黙と視線と知性が交錯する頭脳戦として、スパイ映画の概念を覆した名作です。本記事では作品概要・原作・あらすじ・キャスト・制作背景・受賞歴まで、公的情報をもとに詳しく解説いたします。
作品概要:基本情報
『裏切りのサーカス』(原題:Tinker Tailor Soldier Spy)は、2011年に製作されたイギリス・フランス・ドイツ合作のスパイ映画です。製作はワーキング・タイトル・フィルムズ(ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー)、フランスのスタジオカナルが出資しました。プレミア上映は第68回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門で行われています。
監督はトーマス・アルフレッドソン、脚本はブリジット・オコナーとピーター・ストローハン、製作はティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、ロビン・スロヴォ、音楽はアルベルト・イグレシアスが担当しています。日本ではギャガ配給のもと、2012年4月21日にR15+指定で劇場公開されました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原題 | Tinker Tailor Soldier Spy |
| 製作年 | 2011年 |
| 製作国 | イギリス・フランス・ドイツ合作 |
| 監督 | トーマス・アルフレッドソン |
| 脚本 | ブリジット・オコナー、ピーター・ストローハン |
| 原作 | ジョン・ル・カレ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』(1974年) |
| 音楽 | アルベルト・イグレシアス |
| 製作 | ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、ロビン・スロヴォ |
| 製作費 | 約2,000万ドル |
| 上映時間 | 127分 |
| レーティング | R15+ |
| 配給(日本) | ギャガ |
| 日本公開 | 2012年4月21日 |
| 全世界興行収入 | 約8,065万ドル |
原作について:元MI6諜報員が実際の事件を基に書いたスパイ小説
本作の原作はジョン・ル・カレが1974年に発表した小説『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ(Tinker, Tailor, Soldier, Spy)』です。ジョン・ル・カレはイギリスの外務省およびMI5・MI6に勤務した経験を持つ作家で、自身の諜報活動の経験を活かした作品を多数発表してきました。
本作の原作小説は、実際にMI6に存在した二重スパイの事例を基に執筆されたとされており、冷戦期のロンドンを舞台に現実的なリアリズムで描かれた諜報小説として大きな評価を受けました。「サーカス」はイギリス秘密情報部(SIS=MI6)の俗称として劇中で使用されており、本部がロンドンのケンブリッジ・サーカスに位置していたことに由来するとされています。
1979年にはBBCによってテレビドラマ化され、アレック・ギネスがスマイリー役を演じた版が放映されました。エミー賞作品賞候補になるなど高い評価を受けており、本作はそれ以来となる映像化作品です。なお、ジョン・ル・カレはスマイリー役にアレック・ギネスを熱望したと言われています。
あらすじ:誰が「もぐら」なのか——沈黙と記憶が語る真実
1970年代初頭のロンドン。東西冷戦下でイギリス秘密情報部「サーカス」は、ソ連の諜報機関KGBと激しい情報戦を繰り広げていました。サーカスのリーダー「コントロール」(ジョン・ハート)は、組織の最高幹部5人のうちの誰かが長年にわたってKGBに内通するソ連の二重スパイ「もぐら」であるという疑惑を抱えていました。コードネームは「ティンカー(鋳掛け屋)」「テイラー(仕立て屋)」「ソルジャー(兵士)」「プアマン(貧乏人)」の4人、そして「ベガーマン(物乞い)」。
ある秘密作戦の失敗とともに「もぐら」の正体に迫ることができなかったコントロールは、その後まもなく死去。コントロールの右腕だった老スパイ、ジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマン)も組織を追われていました。そんなスマイリーのもとに、政府関係者から「もぐら」の調査を一人で担当するよう特命が下されます。
スマイリーはかつての若き同僚ピーター・ギラム(ベネディクト・カンバーバッチ)の助けを得ながら、ゆっくりと、しかし着実に過去の断片を拾い集めていきます。ハンガリーで行われた謀略作戦中に銃撃されたジム・プリドー(マーク・ストロング)の証言、ソ連の高官の妻イリーナ(スヴェトラーナ・ホドチェンコワ)の亡命情報を持ち帰ろうとした工作員リッキー・ター(トム・ハーディ)の報告、退役した元分析官コニー・サックス(キャシー・バーク)の記憶——それらを結びつけることで、「もぐら」の正体が静かに、しかし確実に浮かび上がってきます。
スマイリーの疑惑の目は、副長官パーシー・アレリン(トビー・ジョーンズ)、幹部ビル・ヘイドン(コリン・ファース)、ロイ・ブランド(キアラン・ハインズ)、トビー・エスタヘイス(デヴィッド・デンシック)ら各幹部に向けられていきます。そして最終的に、「もぐら」の真の姿が明らかになります。
キャスト紹介:英国映画界の精鋭が集結した至上のアンサンブル
ゲイリー・オールドマン(ジョージ・スマイリー役)
本作の主役で、組織を離れ「もぐら」の調査を一人引き受ける老スパイを演じています。トーマス・アルフレッドソン監督はオールドマンを選んだ理由について「高貴な顔」と「必要とされる静かな強さと知性」を持っているからだと説明しています。これまでキャリアのほとんどを個性的で過激な悪役や感情爆発型の人物に費やしてきたオールドマンが、本作では台詞を極力抑え、眼鏡越しの眼差しと微かな表情だけで人物の内面を表現するという、全く異なるアプローチで臨んでいます。本作での演技により第84回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされ、英国アカデミー賞(BAFTA)でも主演男優賞にノミネートされました。
コリン・ファース(ビル・ヘイドン役)
スマイリーの妻アンとも複雑な関係を持つサーカスの幹部を演じています。『英国王のスピーチ』(2010年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞した直後の出演作で、紳士的な外見の下に秘密を抱えた人物を静かに演じています。
トム・ハーディ(リッキー・ター役)
ソ連の高官の妻イリーナと出会い、亡命情報を持ち帰ろうとした工作員を演じています。マイケル・ファスベンダーが当初起用される予定でしたが、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』とのスケジュールが重なり、ハーディが代わりに起用されました。
ベネディクト・カンバーバッチ(ピーター・ギラム役)
スマイリーを補佐するサーカスの中堅幹部を演じています。当時はまだ『シャーロック』で世界的人気を得る直前の出演で、知性的な助演者として重要な役割を果たしています。
マーク・ストロング(ジム・プリドー役)
ハンガリーでの秘密作戦中に銃撃されたサーカスの工作員を演じています。物語の発端となる重要な人物です。
ジョン・ハート(コントロール役)
サーカスの前リーダーを演じています。「もぐら」の存在に気づきながらも正体に迫れないまま失脚し、まもなく死を迎える役どころです。
トビー・ジョーンズ(パーシー・アレリン役)
コントロールの死後にサーカスのリーダーとなった人物を演じています。当初、ジャレッド・ハリスが予定されていましたが『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』とのスケジュール衝突により断念し、ジョーンズが起用されました。
キアラン・ハインズ(ロイ・ブランド役)、デヴィッド・デンシック(トビー・エスタヘイス役)、キャシー・バーク(コニー・サックス役)、サイモン・マクバーニー(オリヴァー・レイコン役)、スヴェトラーナ・ホドチェンコワ(イリーナ役)
いずれも物語の重要な鍵を握る役どころを演じ、重厚なアンサンブルを形成しています。
制作背景:スウェーデンの鬼才監督が描く「絵画のような」冷戦の記憶
監督トーマス・アルフレッドソンはスウェーデン出身で、スタイリッシュなヴァンパイア映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008年)で国際的な注目を集めた監督です。本作でも「絵画のような映像」と評される美術的な映像構成を徹底し、1970年代初頭のロンドンの閉塞した空気感と灰色がかったトーンで物語を描き出しています。
本作の演出の最大の特徴は「省略」です。台詞やシーンは意図的に省略され、詳しい説明が排除された結果、観客自身が「もぐら」を探す側のスパイと同じ体験を強いられます。こうした語り口は初見では難解さを感じさせますが、繰り返し観るたびに各シーンの意図が明確になり、「なぜそのシーンがあったのか」が理解できる精緻な構造となっています。
脚本を担当したブリジット・オコナーは残念ながら本作の完成を見ることなく2010年に死去しており、本作が遺作となりました。ピーター・ストローハンが完成させた脚本は、第84回アカデミー賞脚色賞と英国アカデミー賞(BAFTA)脚色賞にノミネートされています。
なお、原作者のジョン・ル・カレ自身も本作に端役でカメオ出演しています。
受賞歴と評価:アカデミー賞3部門ノミネートの高評価作
本作はイギリスで週末興行収入3週連続1位を記録し、全世界で約8,065万ドルの興行収入を達成しました。
批評面でも高い評価を獲得し、ロッテン・トマトーズでは批評家支持率84%を記録しています。第84回アカデミー賞では主演男優賞(ゲイリー・オールドマン)、脚色賞(ピーター・ストローハン)、作曲賞(アルベルト・イグレシアス)の3部門にノミネートされました。英国アカデミー賞(BAFTA)でも主演男優賞を含む複数の部門でノミネートを受けています。Filmarksでは平均3.6点(5点満点)と、一般観客からも高い評価を受けています。
まとめ:ゲイリー・オールドマンのキャリア最高傑作のひとつ
『裏切りのサーカス』は、ジョン・ル・カレの原作が持つ複雑さと深みを映像として見事に昇華させた、冷戦スパイ映画の傑作です。銃撃戦もカーチェイスも存在しない本作で観客を引き込むのは、俳優たちのわずかな視線、沈黙、そして緻密に計算された編集の妙です。ゲイリー・オールドマンが厚底メガネをかけた老スパイとして画面に佇むだけで、スクリーン全体に重力が生まれるような体験は、他のスパイ映画では味わえないものです。
初見では複雑に感じるかもしれませんが、ニ度三度と観ることでその精緻な構造と伏線が明確になる、観るたびに発見のある作品です。英国映画・スパイ映画・冷戦時代の歴史に興味をお持ちの方に、強くおすすめしたい一本です。現在はDVD・Blu-rayのほか、各種動画配信サービスでも鑑賞可能です。
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