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第二次世界大戦下のイギリスを率いた宰相ウィンストン・チャーチルを描いた歴史ドラマ『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(原題:Darkest Hour)。ゲイリー・オールドマンがアカデミー賞主演男優賞を獲得したことでも知られる本作ですが、その裏には日本人アーティストの活躍や、緻密な時代考証など数多くの見どころが詰まっています。今回は物語の核心にはあえて触れず、作品の基本情報やキャスト、製作エピソード、受賞歴を中心にご紹介します。
1. 作品の基本情報
本作は2017年に製作されたイギリス・アメリカ合衆国合作の戦争映画で、上映時間は125分です。プレミア上映は2017年9月の第42回トロント国際映画祭で行われ、アメリカでは同年11月22日、イギリスでは2018年1月12日に劇場公開されました。日本では2018年3月30日にビターズ・エンドとパルコの配給で全国公開されています。原題の「Darkest Hour」は、ナチス・ドイツの脅威が最高潮に達した1940年のイギリスを指す言葉として使われており、邦題では「ヒトラーから世界を救った男」というサブタイトルが添えられています。
物語の舞台となるのは、ネヴィル・チェンバレン首相が退陣し、チャーチルが後任として首相に就任した1940年5月前後のイギリスです。ナチス・ドイツの侵攻によってヨーロッパ情勢が緊迫の度を増すなか、政界内でも孤立しがちだったチャーチルが、いかにして国のかじ取りを担っていくのかという政治劇としての側面が本作の大きな軸になっています。派手な戦闘シーンよりも、閣議室や首相官邸での緊張感あるやり取りに重きが置かれている点も特徴です。
2. 監督ジョー・ライトと脚本アンソニー・マクカーテン
メガホンを取ったのは、『プライドと偏見』や『つぐない』などで知られるジョー・ライト監督です。重厚な人間ドラマから壮大な戦争描写まで幅広く手掛けてきた監督で、本作でもチャーチルという巨大な歴史的人物の内面に迫る演出が高く評価されました。狭い室内空間での会話劇でありながら緊張感を持続させる演出手腕は、これまでの作品でも培われてきたライト監督ならではの持ち味といえます。
脚本を担当したのは『博士と彼女のセオリー』で知られるアンソニー・マクカーテンです。マクカーテンは実在の偉人を題材にした脚本を得意としており、本作でもチャーチル没後に公開された戦時内閣の閣議記録などをもとに、史実に基づきながらチャーチルという人物の人間味あふれる一面を描き出しています。政治家としての功績だけでなく、朝から酒をたしなむ変人ぶりや、妻クレメンティーンとのウィットに富んだやり取りといった素顔にも光を当てている点が、本作の脚本の魅力のひとつです。
3. ゲイリー・オールドマンが挑んだ役作り
主演のゲイリー・オールドマンは、実在の人物であるチャーチルを演じるにあたり、外見だけでなく声色や仕草に至るまで徹底的に研究を重ねたと伝えられています。もともと細身の体型であるオールドマンが恰幅の良いチャーチル像を体現するため、特殊メイクによる大掛かりな変身を遂げたことでも大きな話題を呼びました。撮影は長時間にわたる特殊メイクの装着を伴う過酷なものだったとされていますが、その甲斐あって画面に映るのはまさにチャーチルそのものと評される仕上がりとなりました。
チャーチルは葉巻を手放さず、独特の話し方や間の取り方に強い個性がある人物として知られています。オールドマンはそうした細かな癖まで徹底的に再現することで、単なるものまねにとどまらない人物像を作り上げました。俳優としてのキャリアの中でも、これほど大掛かりな役作りに挑んだ例は珍しく、本作を語るうえで欠かせないエピソードのひとつになっています。
4. 辻一弘による特殊メイクとアカデミー賞受賞
オールドマンの変身を支えたのが、現代彫刻家としても活動する辻一弘さんの特殊メイク技術です。辻さんは一度映画の仕事から離れていましたが、オールドマン本人からのオファーを受けて特殊メイクのみを担当する形で本作に参加しました。この仕事が高く評価され、辻さんは第90回アカデミー賞でメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞しています。この部門での日本人の受賞は史上初めてのことであり、日本でも大きなニュースとなりました。
5. 共演キャストの顔ぶれ
チャーチルを支える妻クレメンティーン役には、『イングリッシュ・ペイシェント』などで知られるクリスティン・スコット・トーマスが起用されました。長年連れ添った夫婦ならではの阿吽の呼吸や、時に厳しく夫を諭す姿が印象的に描かれています。新任の秘書エリザベス・レイトン役は『ベイビー・ドライバー』のリリー・ジェームズが演じ、口述筆記に慣れない新人秘書という立場から、観客をチャーチルの日常へと導く案内役のような役割も担っています。当時の英国王ジョージ6世役にはベン・メンデルソーンが扮しており、前王エドワード8世の退位問題を経て即位した王としての葛藤も垣間見える人物として描かれます。実力派俳優たちが脇を固めることで、チャーチルを取り巻く人間模様に厚みが生まれている点も本作の見どころです。
6. チャーチルを象徴するスーツへのこだわり
衣装面でも史実へのこだわりが随所に見られます。劇中でオールドマン演じるチャーチルが身にまとうスーツは、ロンドンのサヴィル・ロウにある仕立て屋ヘンリー・プールによるものです。ヘンリー・プールは実際のチャーチルが贔屓にしていた店のひとつで、特にフランネル素材のチョークストライプ柄のスーツは、チャーチルを象徴するスタイルとして知られています。こうした細部への配慮が、時代背景の説得力を高めています。
7. アカデミー賞をはじめとする数々の受賞歴
本作はゲイリー・オールドマンに主演男優賞をもたらしただけでなく、第90回アカデミー賞では作品賞、美術賞、撮影賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞にもノミネートされました。オールドマンはアカデミー賞に加え、第75回ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)や第24回全米映画俳優組合賞でも主演男優賞を受賞しており、この年を代表する演技として国際的に高く評価されました。
8. 鑑賞するうえで押さえておきたいポイント
本作は史実をベースにしていますが、あくまで映画としてのドラマ性を高めるための脚色も加えられています。とはいえ、当時の閣議記録や関係者の証言をもとに丁寧な時代考証が行われており、政治家としてのチャーチルだけでなく、一人の人間としての弱さや迷いも含めて描かれている点が高く評価されています。歴史の知識がなくても人物ドラマとして十分に楽しめる作りになっているため、第二次世界大戦の背景に詳しくない方でも安心して鑑賞できる作品です。
9. まとめ
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』は、単なる歴史ドラマにとどまらず、ゲイリー・オールドマンの圧倒的な役作りと、それを支えた辻一弘さんの特殊メイクという、日英をまたぐ才能の結晶ともいえる作品です。ジョー・ライト監督の丁寧な演出と実力派キャストの演技、そして衣装に至るまでの時代考証を知った上で鑑賞すると、また違った角度から作品を楽しめるはずです。
歴史ドラマが好きな方はもちろん、名優たちの演技力に注目したい方、あるいは映画のメイクアップ技術に興味がある方にもおすすめできる一本です。政治家としてのチャーチルの功績だけでなく、迷いや弱さを抱えた一人の人間としての姿にも触れられる本作は、何度観ても新たな発見がある作品といえるでしょう。
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