『Mank/マンク』はなぜ映画好きから支持されるのか|デヴィッド・フィンチャーが描いたハリウッド黄金期の脚本家像

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※記事内の画像は全てイメージです。実際の製品・写真とは異なります。

「市民ケーン」という映画史に残る一本の背後には、一体どんな人物がいたのでしょうか。2020年公開の『Mank/マンク』は、その脚本を手がけた実在の人物ハーマン・J・マンキーウィッツに焦点を当てた伝記ドラマです。監督を務めたのはデヴィッド・フィンチャーで、主演にはゲイリー・オールドマンが起用されました。全編モノクロで撮影された本作は、単なる映画業界の裏側を描いた作品にとどまらず、1930年代のハリウッドという時代そのものを映し出す一本に仕上がっています。今回は物語の核心には踏み込まず、作品の成り立ちやキャスト、映像面の見どころを中心に紹介していきます。

1.作品の基本情報

『Mank/マンク』は2020年に公開されたアメリカのアメリカ製作の伝記ドラマ映画です。舞台は1930年代から1940年代初頭のハリウッドで、脚本家ハーマン・J・マンキーウィッツが、若き映画監督オーソン・ウェルズのために「市民ケーン」の脚本を執筆していく過程が描かれています。主人公マンクを演じたのはゲイリー・オールドマンで、共演にはアマンダ・サイフリッド、リリー・コリンズ、アーリス・ハワード、トム・ペルフリー、チャールズ・ダンスといった顔ぶれが名を連ねています。作品はアメリカでは2020年11月13日に限定公開され、同年12月4日からNetflixで配信が始まりました。全編が美しいモノクロ映像で撮影されている点も大きな特徴で、往年のハリウッド映画そのものを見ているような感覚を味わえる作りになっています。

2.長い年月を経て実現した企画

本作の脚本を執筆したのは、フィンチャー自身の父であるジャック・フィンチャーです。実はこの企画、フィンチャーが1997年の「ザ・ゲーム」を完成させた直後に映画化しようとしていた、非常に長い歴史を持つ企画でした。当時はケヴィン・スペイシーとジョディ・フォスターを主演に迎える構想もあったと伝えられていますが、この時は実現には至りませんでした。脚本を書いたジャック・フィンチャーは2003年に亡くなっており、本作は父の遺した脚本を息子が長い年月をかけて映像化した、という背景を持つ作品でもあります。企画が正式に発表されたのは2019年7月のことで、撮影はロサンゼルス周辺で同年11月から翌2020年2月にかけて行われました。モノクロ撮影へのこだわりが、企画が長らく実現しなかった理由のひとつとも言われており、フィンチャーの映画作りに対する強い信念がうかがえるエピソードといえるでしょう。製作を担ったのはシアン・チェイフィン、ダグラス・アーバンスキー、エリック・ロスの3人で、配給はNetflixが手がけています。長年温め続けてきた企画をようやく世に送り出せたという点でも、フィンチャーにとって特別な意味を持つ一本であることは間違いありません。

3.主人公を演じたゲイリー・オールドマンの存在感

主人公ハーマン・J・マンキーウィッツを演じたゲイリー・オールドマンは、本作の前作にあたる「ダークウォーターズ」ではなく「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」でアカデミー主演男優賞を受賞したばかりのタイミングで本作に臨んでいます。実在の人物に似せるための本格的な特殊メイクを施す案もあったようですが、最終的には最小限のメイクで役に向き合う方向へと落ち着きました。素顔に近い状態で演じることについて、当初は抵抗もあったとオールドマン自身が振り返っていますが、結果としてはこのアプローチが人物の内面をより率直に伝える演技につながったといわれています。皮肉屋でありながらどこか愛嬌のある人物像を、台詞まわしと佇まいだけで表現しきった演技は、本作最大の見どころのひとつです。

共演のアマンダ・サイフリッドは、実業家ウィリアム・ランドルフ・ハーストのパートナーであったマリオン・デイヴィスを演じています。単なる添え物的な役柄にとどまらず、聡明さと人間味を兼ね備えた人物として描かれており、作品全体に温かみを添える存在になっています。ハーストを演じたチャールズ・ダンスの重厚な存在感、オーソン・ウェルズ役のトム・バークが見せる若さゆえの傲慢さと才気にあふれた演技も、物語に深みを与えています。

4.モノクロ映像とプロダクションデザインへのこだわり

本作最大の特徴といえるのが、全編にわたるモノクロ撮影です。撮影を担当したのはエリック・メッサーシュミットで、単に色を抜いただけの映像ではなく、当時のハリウッド映画が持っていた独特の陰影やコントラストを再現するために、照明設計から画作りまで徹底的に作り込まれています。美術面を手がけたのはドナルド・グラハム・バートで、1930年代のハリウッドのスタジオやハースト城を思わせる邸宅など、時代の空気感を細部まで再現したセットデザインが高く評価されました。音楽はトレント・レズナーとアッティカス・ロスが手がけており、当時の楽器編成にこだわった劇伴が、モノクロ映像と組み合わさることで独特の没入感を生み出しています。こうした映像・音響面へのこだわりの積み重ねが、単なる懐古趣味にとどまらない、説得力のある時代描写を実現しているといえるでしょう。作中には往年のハリウッドを彩った実在の人物たちが数多く登場する点も見逃せません。映画会社の重役だったルイス・B・メイヤーやアーヴィング・タルバーグ、劇作家として知られるジョージ・S・カウフマンなど、当時の映画産業を支えた人物が次々と画面に現れる構成になっており、往年の映画ファンにとっては人物探しをするだけでも楽しめる作りになっています。

5.数々の映画賞での高評価

『Mank/マンク』は公開後、多くの映画賞で高い評価を獲得しました。第93回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞を含む合計10部門にノミネートされ、当時としては最多ノミネート作品のひとつとなりました。受賞に至ったのは美術賞と撮影賞の2部門で、ドナルド・グラハム・バートとセット装飾を担当したジャン・パスカルが美術賞を、エリック・メッサーシュミットが撮影賞をそれぞれ手にしています。このほかゴールデングローブ賞では作品賞(ドラマ部門)を含む6部門にノミネートされ、英国アカデミー賞でも同じく6部門にノミネートされるなど、映像面や美術面を中心に業界内での評価は非常に高いものでした。撮影を手がけたメッサーシュミットにとっては、これが自身初となるアカデミー賞受賞という節目の作品にもなっています。

6.まとめ|映画好きにこそ味わってほしい一本

『Mank/マンク』は、派手な展開やわかりやすいカタルシスを求める作品ではありません。むしろ、ひとりの脚本家が抱える矛盾や葛藤、そしてハリウッドという業界の内側にある複雑な人間関係をじっくりと描き出す、じわじわと効いてくるタイプの映画です。モノクロ映像の美しさやゲイリー・オールドマンをはじめとするキャスト陣の演技力、細部まで作り込まれた美術など、映画そのものを味わう楽しみに満ちた一本といえるでしょう。「市民ケーン」を観たことがある人はもちろん、まだ観ていないという人にとっても、ハリウッド黄金期の空気を体感できる貴重な作品として、ぜひ手に取ってみてほしい映画です。


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