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1991年に公開された『ケープ・フィアー』は、マーティン・スコセッシ監督とロバート・デ・ニーロというゴールデンコンビが放ったサイコスリラーの傑作です。1962年の『恐怖の岬』を下敷きにしながらも、豪華な新旧キャストの共演や巨匠たちが結集したスタッフワークによって、独自の緊張感を作り上げた本作。この記事では、あらすじや結末の詳細には触れず、公的な情報をもとに作品の成り立ちやキャスト、音楽、評価といった背景を中心にご紹介します。
1.作品の基本情報とマーティン・スコセッシ監督が手掛けた経緯
『ケープ・フィアー』は1991年11月15日にアメリカで公開され、日本では同年12月21日に劇場公開されました。上映時間は128分、配給はUIPです。監督を務めたのはマーティン・スコセッシ監督で、脚本はウェズリー・ストリックが担当しました。
本作は元々スティーヴン・スピルバーグが自ら監督する予定で企画を進めていた作品でした。しかしスピルバーグは内容が暴力的すぎると判断し、当時制作を検討していた『シンドラーのリスト』とプロジェクトを交換する形でスコセッシに監督を託したという経緯が知られています。スコセッシは、映画『最後の誘惑』を巡る騒動の際にユニバーサル・ピクチャーズが支援してくれたことへの恩義から、本作の監督を引き受けたとされています。なお、スピルバーグはアンブリン・エンターテインメントを通じて製作総指揮の一人として関わっており、製作総指揮にはキャスリーン・ケネディとフランク・マーシャル、製作にはバーバラ・デ・フィーナが名を連ねています。
キャスティングの過程にも興味深いエピソードが残されています。スコセッシ監督は以前『ニューヨーク・ストーリーズ』(1989年)で仕事をしたニック・ノルティを想定する一方、弁護士サム・ボーデン役には当初ハリソン・フォードを起用する構想もあったとされています。ただしフォード自身は敵役のマックス・ケイディ役を希望しており、逆にノルティがサム役を熱望してスコセッシを説得したという経緯が伝えられています。製作陣の一人であるスピルバーグは、ケイディ役にビル・マーレイを起用したいと考えていたとも言われており、最終的な配役に至るまでには様々な候補が検討されていたことがうかがえます。
2.豪華な出演陣—新旧キャストが繋ぐ因縁の共演
主演のマックス・ケイディ役をロバート・デ・ニーロが演じ、彼を追い詰められる弁護士サム・ボーデン役をニック・ノルティが演じています。サムの妻リー役はジェシカ・ラング、娘ダニエル役はジュリエット・ルイスが務めました。この演技によりデ・ニーロは第64回アカデミー賞主演男優賞に、ジュリエット・ルイスは同助演女優賞にそれぞれノミネートされています(受賞には至りませんでした)。ゴールデングローブ賞でも同様に両者がノミネートされました。
本作の見どころのひとつが、1962年版『恐怖の岬』に出演した俳優陣のカメオ出演です。オリジナル版で弁護士サム役を演じたグレゴリー・ペックが本作では犯人側の弁護士リー・ヘラー役を、犯人ケイディ役を演じたロバート・ミッチャムが警部エルガート役を、そして警察署長役だったマーティン・バルサムが裁判官役を演じるという、配役を入れ替えた遊び心のあるキャスティングがなされました。ちなみにダニエル役のオーディションにはドリュー・バリモアやリース・ウィザースプーンも名を連ねていたことが知られています。
また、デ・ニーロは撮影にあたって役作りのために体を鍛え上げて筋肉量を増やし、対するノルティは体重を落として役に臨んだことも知られています。身長では上回るノルティに対し、デ・ニーロの体格を強化することで、画面上での威圧感のバランスを取る狙いがあったとされています。ロバート・デ・ニーロが演じるケイディの体に施された入れ墨のデザインは、ロバート・ミッチャムが映画『狩人の夜』で演じたいかさま牧師の入れ墨に着想を得たものだという逸話も残されています。こうした細部への作り込みからも、新旧両作品への目配りがうかがえます。
3.音楽と映像美術に見る巨匠たちの仕事
本作の音楽は、1962年版でアルフレッド・ヒッチコック監督作品の常連であったバーナード・ハーマンが手掛けたスコアを、エルマー・バーンスタインが編曲・指揮する形で採用されています。撮影は英国のホラー映画で名高いフレディ・フランシス、美術はヒッチコック監督『めまい』を手掛けたヘンリー・バムステッド、そしてオープニングのタイトル・シークエンスはヒッチコック作品でも知られるソール・バスが担当しました。編集は名匠セルマ・スクーンメイカーです。
このように、ヒッチコック作品に縁のあるスタッフを積極的に起用することで、古典的なサスペンス映画の伝統を踏まえつつ、それをスコセッシ監督ならではの独自のカメラワークや編集技術で再構築するという狙いが随所に感じられる仕上がりとなっています。
4.原作小説と1962年版『恐怖の岬』とのつながり
『ケープ・フィアー』は、ジョン・D・マクドナルドが1957年に発表した小説『処刑人』(The Executioners)を原作としています。1962年に公開された映画『恐怖の岬』は、この小説をジェームズ・R・ウェッブが脚色したもので、1991年版はさらにウェズリー・ストリックが脚本を書き直す形でリメイクされました。
1962年版の監督はJ・リー・トンプソンで、当時からヒッチコックの影響を公言し、音楽にバーナード・ハーマンを起用していました。1991年版はこの伝統を踏襲しつつ、スコセッシ監督ならではの視点を加えた作品として位置づけられています。
5.公開後の評価と興行成績、受賞歴
『ケープ・フィアー』は公開初週に興行収入1位を記録するヒット作となり、最終的に全世界で1億8,229万ドル(製作費3,500万ドル)を売り上げました。これはスコセッシ監督作品として初めて興行収入1億ドルを突破した作品となっています。
批評面でも概ね好意的な評価を受けており、レビュー集積サイトのロッテン・トマトでは60件のレビューをもとに支持率77%を記録し、「スコセッシ監督による、洗練された娯楽性の高いショッカー」といった趣旨の総評が寄せられています。批評家レビューを集計するメタクリティックでも9件のレビューをもとに100点満点中73点を獲得しており、「概ね好意的」な評価に分類されています。観客動員数調査のシネマスコアでは、A+からFまでの評価でB+を記録しました。
映画評論家として知られるロジャー・イーバートは、シカゴ・サンタイムズ紙において本作に4つ星中3つ星を付け、スコセッシ監督が伝統的なハリウッドのジャンル映画を、自身のテーマや作家性へと巧みに落とし込んだ手腕を評価するコメントを残しています。前述の通り、第64回アカデミー賞では主演男優賞(デ・ニーロ)と助演女優賞(ジュリエット・ルイス)にノミネートされたほか、第49回ゴールデングローブ賞でも同部門でノミネートを受けました。
6.現在まで続く影響力とドラマ版の始動
『ケープ・フィアー』は公開から30年以上経った現在も高い知名度を誇っており、アニメ『ザ・シンプソンズ』のエピソード「Cape Feare」でパロディの題材として取り上げられたことでも広く知られています。このパロディはさらに、劇作家アン・ウォッシュバーンによる戯曲『ミスター・バーンズ』の題材にもなりました。ほかにも、2003年の映画『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』における刑務所のシーンが本作へのオマージュとして描かれたほか、ドラマ『となりのサインフェルド』のエピソードでもパロディが取り上げられています。また、プロレス団体WWEに登場したキャラクターのモデルになるなど、ポップカルチャーへの影響も見られます。
2023年には、スピルバーグとスコセッシが製作総指揮として名を連ねる新たなテレビシリーズ版の企画が発表されました。2024年にはハビエル・バルデムがマックス・ケイディ役、2025年にはエイミー・アダムスが出演することが明らかにされ、Apple TV+にて2026年6月にシリーズが配信開始されています。名作リメイクがさらに新しい形で受け継がれている点も、本作の評価の高さを物語っていると言えるでしょう。
7.まとめ
1991年版『ケープ・フィアー』は、スコセッシ監督とデ・ニーロというタッグに加え、1962年版のキャストのカメオ出演、ヒッチコック作品に縁のあるスタッフ陣の起用など、随所にオリジナルへの敬意と再構築の工夫が詰め込まれた作品です。興行的にも批評的にも高い評価を得た本作は、公開から長い年月を経た今もなお、サイコスリラーというジャンルを語るうえで欠かせない一本として語り継がれています。まだ鑑賞していない方は、この背景を踏まえたうえで、ぜひスクリーンでその緊張感を味わってみてはいかがでしょうか。
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